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重かったのだろう。
トンって置いて、反動
軽く湯をかけたらしい。
「大丈夫か」
「うん」
嫁がくすっと笑った。
「優しいんですね」
「基本的にね」
いちごペーストのヨーグルトの中に細かく刻まれたりんごのコンポート。
「これ美味い」
「旅行行くのに、冷蔵庫、空にしようと思って…」
「じゃあ、もうないのか」
「ありますよ。結局残っちゃいました。
りんごって、煮ても嵩が減らないんだもん。
帰ったらアップルパイにしようかな…」
帰ったら……は良いな。
嫁は、旅行が終わっても、嫁でいるらしい。
「アップルパイ…フランス派?アメリカ派?」
「アメリカ派です」
「同じだ」
「お料理詳しいですね…
さっき、紅茶の時も思いましたけど…」
「真美子の持ってきた本、結構読んだよ」
「え」
「…よくわからなくて」
俺は、ふっと笑った。
「新婚なのに、同居だからね」
「あ…あのぅ……////」
それがどういう意味か、考えた嫁は赤くなっている。
両手を前でもじもじしてるが
俺はそんなお前の胸の谷間……もう吸っちゃってるんだよ。
かわいいのも、よぉくわかってんだ。
「…」
「な、なんですか?どして見てるんですかっ」
上擦るお前。
「…かわいいから」
「っっ」
ばかあっと肩を拳骨で殴られた。
げんこつだよ!?
「いきなり、こぶしかよ!?」
「だ、だって、からかうからっ////」
「思ったことしか言ってないし」
「うっ////うるちゃいです」
「見合いの時さ、お前、遅れてきて、慌てたろ」
「う」
「あの、時間厳守っていう必死な顔がかわいくてさ
七五三みたいな髪飾り揺らして、どわああって走ってきたろ?
あれ思い出した」
あの日、席に座った嫁は、泣きそうになりながら「ごめんなさい、お待たせしましたか」と謝った。
「そしたら拓海さん、見合いは男より女性は必ず遅れて入るんだよってマニュアル本見せてくれましたよね」
「見合い、初めてだったんでね」
「あれ、嬉しかった。安心しました」
「でも緊張したなあ。“あとは若い二人で”とか言われて、庭園にほっぽり出されてもなあ」
「寒かったのにコートかけてくれましたよね」
「寒かったからコートかけたんだよ」
「拓海さん、寒くなかったんですか」
「あれ見たら寒くないだろ」
振り袖姿のお前が、俺のトレンチコートを肩からかぶり、嬉しそうに笑った瞬間
あ、これ、嫁だ。
直感で思った。
俺、こいつと朝飯喰う仲になるわ。
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