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それから数日後の土曜日、いつものように高野線上りチームと改札口で別れた直後の事だった。
定期券をかばんに戻そうとした彼女のリュックサックの右脇のポケットから臙脂色の小さな巾着が落ちた。拾ってみると、妙に堅い手触りだった。小さな紙のようなものが何枚も入っているのは分かったけど、トランプや単語帳にしてはごつい感じ。
「何入ってんの?」
「べつに…」
「見てもいい?」
渋られたが、再度頼んだら了承してくれた。志望校を聞いた時もそうだけど、どうも断れないタイプらしい。
巾着の中から出てきたのはひらがなの書かれた、たくさんの小さな札。これは確か…
「百人一首?なんでこんなん持ってるん?」
「学校でかるた部やから、覚えるのに」
「かるた部って…あれ?」
赤い袴姿の女の子が真ん中に描かれた映画のポスターを俺は指さした。2番線に止まっていた泉北高速の車両の中にちょうど都合よく吊られていたのだ。
主役の女の子が可愛いからか、巷では人気の映画らしい。だけど俺は全く興味が無い。だってかるただなんて、一体いつの時代の遊びだよ。
俺は札をしげしげと眺めた。よほどやりこんでいるのか、どの札も手垢で少々黄ばんでいる。
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