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 帰郷した理由は二つ。  一つは高校の同窓会に出席するため。もう一つは卒業後、こっちに戻ってから住む部屋の契約をするため。  高校を出て県外の大学に進学してからというもの、学業とアルバイトに忙しいことを理由に、実家にはほとんど帰らなかった。卒業したら地元に戻ることは決めていたし、日常的に親に連絡をとる習慣もないから自分からはめったに電話もしない。同窓会も、この四年間にそれらしき内容のメールを一、二度受け取ったことはあったけど、参加どころか返事すらしなかった。  友人達に逢いたくないわけじゃないけど、僕が逢いたいと思う人間はたった一人だけで、そいつは僕が地元へ寄りつかないことに文句を言いながらも、電車を乗り継ぎ何時間もかけてひとり暮らしの僕のアパートを何度か訪れてくれた。  僕が使っているベッドの隣に彼が布団代わりのケットを敷いて寝たのは最初の一度きりで、それからは一緒に食事をし風呂に入った後は、狭いベッドで抱き合いながら一緒に眠るようになった。  そいつは今夜の同窓会にも、もちろん来ている。 「浅陽(あさひ)、智慎(ともちか)にビールついでやんなよ」  向かいに座る男に促され、あぁといいながら浅陽がグラスを渡してくれる。 「女性陣はみんな一軒目を出たら帰っちゃってよう。けどまぁ、お前も田舎に舞い戻ってくるんだなぁ。てっきりあっちで就職すると思ってたけど。あ、じゃあもっかい乾杯ね、かんぱーい!」  相変わらず櫻井の声は大きいし、話していることがあっち行ったりこっち行ったり忙しい。けど、こういう男がいると座が和んでいい。悪気のない奴だとわかっているからかもしれないけれど。  隣を見ると同じことを思ったのか、浅陽も苦笑いしている。久しぶりだ、こんなふうに隣に座るの。といっても、暮れに僕のアパートに彼が来てくれて以来だから二か月ぶりぐらいか。それは僕達二人しか知らないことだけれど。
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