0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
「ほら、見えてきたぜ。要かなめ。」
数少ない友人相澤が、車窓に寄りかかってうたた寝をしている要をゆさゆさ起こす。
何だよ。
折角、現実から逃げられたのに。
眠い目をごしごしと気だるげに擦り、窓の外を見る。成る程、相澤の言う通りだった。
海。広大で、底のない塩水の青い溜まり場。空と同化した地平線。その中を、数多の生き物がうじゃうじゃと今日という日を生きているなんて、要には信じられない。
青い海。生命の源。その下には、今日も人間の手が届かない命が育まれている。
しかし、今は赤黒い光が辺りを照らしていた。砂浜に人影は無く、地平線に半身を隠した太陽なら放たれる暗い光が、海に影を落としていた。
逢魔が時。地上に手足をいっぱい伸ばしていた人間達に、終わりを告げる音の無い鐘。
沈む太陽。
黒い街並み。
血のように、赤い海原。
普通ではない物が広がる。
狭い駐車スペースと格闘する相澤の横で、要はほくそ笑んだ。その心が妙に熱くたぎった。
やっとの事で相澤が駐車場に車を停める。無造作にドアを開けた相澤の後に続くように、要も車から出た。
「はーっ、いい空気だ。潮風って最高だな。」
波打ち際で、相澤が大きく伸びをする。先程の機嫌の悪さはどこへやら。先程の機嫌の悪さはどこへやら。さっきまで、初運転で四苦八苦して苛立っていた癖に。単純な生き物だと要は思った。簡単に気持ちがころころと変わる相澤のことが、たまに恐ろしくなることがある。
その為、要は魂が抜けたように、規則正しく動く波を見つめることしか出来なくなってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!