迷宮のマリオネット

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迷宮のマリオネット

 「無理しないで。ゆっくりでいいの。ゆっくりでいいから、少しずつ思い出せばいいわ」  君枝はそう言うと、しとやかにベッドサイドテーブルの前に座った。  持ってきたトレイを置いて、細長い膝を組む。  トレイには一口大のクッキーが2個とアイスティーセット。そしてDVDケースが一枚乗せてあった。  君枝は2つのグラスにアイスティーを注ぐと、辺りにふわっと芳しい薫りが広がった。  ベッドに寝そべっていた僕は起き上がり、居住まいを正した。  「君枝も座りなよ」  「ありがとう。私はここでいいわ。それよりどう?フォトムービーを見て少しはぴんと来た?」  僕は膝に乗せたDVDのケースを、指で弾く真似をした。  「思い出せない」  そこには『No.1』と書かれたラベルが貼ってある。これは僕が生まれた頃の写真を、妻がDVDに焼いたものだ。  「だって生後から2歳までの写真だろ?ぴんと来なくて当然だよ」  「それはそうね。でもあなたの人生を辿っていけば、記憶喪失からきっと抜け出せるはずよ」  「だといいけど。それにしても、僕ってこんな顔してるんだね」  「ふふ…今だってそう変わらないわよ。少し太ったけどね」  君枝は微笑んだ。
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