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★
───数週間前。
「君は…誰だ?申し訳ないが全く思い出せないんだ」
君枝は僕から看護師に視線をやって、優しそうに表情を崩す。
「奥さんですよ。あなたが救命病棟に運ばれて直ぐにいらしてくれたのよ」
「僕の…妻…?」
確かにこの部屋は病室のようだ。しかし僕はなぜここにいるのだろうか。
視線を戻すと、君枝は優しく頷いた。
「ごめん。僕は何も覚えてなくて…今、自分がどういう状況なんだか…」
「あなたは何も気にする必要はないわ。私にとっては、あなたの命があっただけでもありがたいのだから」
「そうは言ってもね。ところで僕に何があったんだ?」
看護師が病室を出ると、君枝はゆっくりと話しだした。
「あなたはね…車である場所に向かっていたのよ」
「……言ってることが分からないよ」
「それはそうよ。こんな事、あなた以外誰にも言えないし…」君枝はそこまで言うと、「でも、やっぱり今はやめとくわ」と、話の続きを打ち切った。
どういうわけか、その表情には静かな怒りのようなものが見え隠れしていた。僕はその表情がとても気になったが、それよりも先ず自分が何者なのかを知りたかった。
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