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お互いの欠損部分を受け入れると、直ぐにそれを補うだけの柔軟さに長けていた。
(案ずるより産むが易し…とは、よく言ったもんだな)
あれこれと最悪の展開を綾瀬は考えていたが、全てが杞憂に終わりそうだ。
――愛を求めていた知樹は、長くそれを邪魔していた一喜を憎んでいたが、そもそもその動機が、自分を愛するが故の嫉妬だったと理解すると、納得してそれを受け入れた。
一喜は、己の愛を認めて受け入れてくれた知樹を、これからもいっそう熱烈に愛するのだろう。
双方に、兄弟としての禁忌感が無いのは――皮肉にも長い間『他人』のように暮らしていた故だろうか。
特に、知樹にとって一喜はそうだろう。
今の一喜は、知樹の記憶にある、子供の頃の一喜の顔とは全然違う。
完全に別人の顔なのだから。
本当に、見かけによらずタフだ――特に、知樹は。
まさか、愛し合う事について兄弟のモラルも感じないと言い切るとは、本当に予想外だ。
嘆息して、綾瀬は佐々木に水を向ける。
「…それにしても、よく気を利かせてオレのデスクに入っていた小道具を持ってきてくれたな。助かったぜ」
「知樹から〈gelosia&Complesso〉という単語を聞いてすぐに、オレのスマホに住所だけのメールが届いたから、ここに道具を持って知樹と一緒に来てくれって、そう言いたいんだと分かりましたからね」
それにしても…と、続ける。
「着いたら、今度はスマホに『知樹の自由を奪え』でしょう?一瞬焦りましたよ。格闘技なんてオレやったことないし。でも、小道具の中にタオルと薬品のような瓶が入っていたから、これでやれって事なのかと思いついて…あれ、クロロホルムってヤツですか?」
昔のドラマや映画で、クロロホルムという薬品を嗅がせて人を気絶させる描写がある。
苦笑して、綾瀬は聞き返した。
「だと思うか?」
「……何だか、予想していたのとは違ったリアクションでした。酔っぱらいのように骨抜き状態になったから、そのまま縛り上げて所長に身柄を渡しましたが…」
「クロロホルムで気絶なんて、あんなのは大嘘のフィクションだ。あれは本当に強い、た
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