第1章 小動物は対象外

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収入も碌にない大学院生の身の上でウエディングベルがじゃんじゃん鳴り響く教会へまっしぐら、二十歳をとうに何年か過ぎても相変わらず高校生に間違われるこの童顔がきんちょと二人三脚スタート決定。人生の墓場だ。 首をこきこき鳴らして慌てた自分をごまかす。ただでさえ外濠埋められてる感が半端ないのに。これ以上自分から罠の中に飛び込んでいくような真似してどうする。 背後から呆れたような呟きがぼそ、と聴こえてきて我に返る。 「…別に、いいけど。今日相当のどん曇りだよ、天気。…天高く爽やかな秋晴れのお客様日和とはいかないんじゃない?」 いやいや、それこそだよ。 俺は内心で愚痴る。教授のサポートで企業から訪問してくるお客様のお出迎えとデモンストレーションなんて。 どん曇りこそ最適な日和ってもんじゃないか、実際? 昭和時代、五十年代か下手したら四十年代築の今時ありえないおんぼろ店舗付き住宅。当然ほとんどの居室は畳敷きの和室だ。都内の、それなりの住宅密集地の中のちっぽけな商店街に建ってるから土地の値段こそあまり考える気がしないほど(特に相続税…)いいが、とにかく狭い。だいいち廊下って概念がない。そういう無駄な空間はお呼びじゃないのだ。当然のように部屋から部屋を伝って出入りする。キッチン(いや、正直なところそれは『台所』)に向かおうと襖を無造作に開けてちょっと引く。寝乱れた一人ぶんの布団がそこに。     
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