君は一番にはならない

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   * 「三好くん!」  別フロアの総務部に寄った帰り、三好くんの後ろ姿を見つけた。  思わず声を掛けると、三好くんは手を振りこちらへ駆け寄ってきた。腕時計を見る。タイミングよく、十三時だ。昼休みが始まる。 「いきなりでごめんなさい。今日、お昼空いてる? 行きたいお店があるの」  私から誘ったことはなかった。勢いに任せて言ってしまったが、声が震えていたかもしれない。  三好くんの顔がぱっと明るくなる。 「もちろん。財布取ってくる、待ってて」 「あ、あと、話したいことも」  つい、先走る。はっとしたが遅く、三好くんは走り出そうとしたところを振り向いた。 「……話したいことも、あって。後で、いいんだけど」  目が泳いでしまう。  三好くんは、あは、と無邪気な顔で笑った。 「……俺も、あるんだ。話したいこと」  私はエレベーターを降り、一足早く一階のロビーで待った。  今日も日差しは暖かい。  ……マスター、私に勇気をくれますか。  私はどきどきと鳴る胸の鼓動を、必死に抑えていた。  
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