第二章 関係

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 翔史は止まらないあくびを何度も?み殺し、眠い目をこすって目の前のことに集中しようとした。しかし、疲労による眠気が翔史のまぶたを重くし、どうしても集中できない。  秘書の近藤に連絡して、濃いめのコーヒーを淹れてもらった。苦いのはどうしても好きになれず、ミルクと砂糖は必需品。淹れたての熱いコーヒーを、何度か息で冷ましてから一気に飲む。少々熱すぎて、舌は痛いし喉は焼けそうだったけれど、その痛みに目が覚めた。  一度伸びをしてから、各部署の持ってきた報告書に目を通し始める。不具合が生じていないかどうかを確かめ、大丈夫そうな部署のものにはサインをして確認済の箱に入れ、次のものを読んでを繰り返す。  最後に目を通したのは、営業部門のものだった。  飛び込んできた "荒井浩太" の文字。途端に昨日から今日の朝にかけての出来事がフラッシュバックした。  浩太のギラついた視線。震えるほどに欲しくなるその体。何度も意地悪く囁かれる言葉。触れ合う肌が帯びた熱。体中を駆け巡る電流のような快感。  抗いたくても、どうしようもなく浩太に惹かれてしまう翔史の心。  翔史の中には、何故か浩太の生意気なあの態度に、心を震わしている自分がいた。  どうしてそこまで惹かれてしまうかは分からない。忌々しい発情期のせいなのかもしれない。もし終われば、この日々は過去のものになるのだろうか? それとも、永遠に身も心も浩太のものにされてしまうのだろうか?  翔史は自分の行く末を見失い、泣きそうになった。  こうなるはずではなかった。一生、色恋沙汰とは縁のない人生を送っていくはずだった。翔史のその背中には社員の生活がのしかかっていて、その足には性別という重りが繋がっている──。  恋なんていう甘い幻想に、振り回されるわけにはいかないのだ。  翔史は、何かを決心したように、目を見開いて、頬を叩いて、前を向いた。
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