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「あー、和真、引かないで。変質的なものじゃないから。堀之内さんにさ、覚えたい顔の写真を部屋に貼ってずっと眺めてると認識できるようになるって教えてもらって、それで」
必死になって言い訳の言葉を考える。五十嵐の動きが止まっている。やっぱり引かれているのだ。気持ち悪いと思われたかもしれない。尚人は泣きたくなった。
「まだぜんぜん覚えられないんだけどさ。あ、和真が嫌だったら、もう貼らないし」
声が尻すぼみになる。五十嵐が黙っているので、尚人の心臓は冷えていく。五十嵐の表情を顔のパーツから見出す気力もなくなって、尚人は自分の足の甲を見つめた。
「バカ、嫌なわけないだろ」
五十嵐の語尾が掠れ、震えた。
強い力で体を引き寄せられ、抱きしめられる。四枚の写真がパサリと床に落ちる音がした。
「なお、ごめん」
切なそうな、許しを請うような、細い声だった。背中に回された五十嵐の硬い腕は、小刻みに震えている。
――和真、泣いてる?
尚人も彼の背中に腕をまわした。五十嵐に負けないぐらいの力で、抱き返す。絶対に離れたくないと、伝えたくて。
「また俺、勝手な思い込みで嫉妬した」
「――あ」
――渡瀬からもらったサイン?
さっき五十嵐から言われた科白を思い出す。
「俺、渡瀬さんのファンだけど、ぜんぜん恋愛対象として見てないよ」
尚人は焦って弁解する。
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