叶うものなら

19/19
43人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
街のはずれに、あたしの店はある。 物置のような、小さな小さな古い建物。 玄関では『クレアーレ商会』の文字の刻まれた金属板が揺れている。 「ご、ごめんください。僕は駆け出しの魔法鍛冶師でウォラーレと言います。鑑定をお願いしたくて……」 黒髪の、まだ若い男が、緊張した面持ちであたしの前に立った。 「わかったわ。そうね。魔銀の短剣。灯火付加、ウォラーレ作。号はないけど、とても良い出来だわ。いずれは誰かがあなたの作品に号をつけてくれると思う。ウォラーレ、あなたのこの作品、あたしの店に置かせて下さい。決められた手数料は差し引いて、3金貨で買い取ります」 ウォラーレの顔がパッと明るくなった。 「ありがとうございます!!正直、僕は無名過ぎて……他の店では相手にもされなかったんです。誰かのお役に立てればと思ってるんだけど。また何かが出来たら、持って来ても良いでしょうか?」 「もちろんよ」 ウォラーレの黒髪が弾む足取りに合わせて跳ねた。 勢い良く開けた扉から、柔らかで涼しい風が吹き込んできた。 新しい季節は始まったばかりだ。 【完】
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!