肝試しは慎重に…

2/5
27人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
面白半分でT病院に入り込んだ若者達のほとんどが院長を見ている。 恐ろしい顔で白衣をひるがえし、若者達の臓器を狙って追いかけてくるというのだ。 逃げ遅れた不運な若者の何人かは、院長の霊に背中や腹を掴まれ命からがら逃げたものの、そこにはどす黒い手形が残っていたという。 T病院は洒落にならない。 そんな噂が新たに広まりT病院に入り込む若者達はすっかりいなくなった。 ◆ 肝試しの若者達が来なくなって久しい、取り壊し前夜のT病院の前に立つ若い男が一人。 彼は今夜、好きな女性に振られヤケ酒を飲み、終電を逃し歩いて帰宅していたのだが、通りかかったT病院をしばらく眺め、さんざん前をウロウロした挙句、やがて意を決したように中に入っていった。 「強い男の人が好きだからアナタとは付き合えないだなんて……ひどいや。僕だって本気になれば強いんだぞ。その証拠にこんな恐ろしい噂の立つ心霊病院に一人で入る事だってできるんだ」 若い男は強がった独り言をつぶやいたが、その声はおかしいくらい震えていた。 スマートフォンの薄明かりを頼りにまわりを見ると、あちこちの壁が崩れ、窓ガラスは割れ、足元には廃材が転がりひどい有様で不気味な雰囲気に押しつぶされそうになる。 もう引き返そうか……     
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!