一章

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俺には、特殊な能力がある。 それが初めて起こったのは、小学校に入る直前だった。 その日は、仕事中に足を滑らせ骨折した父と2人で、留守番をしていた。 いつも家に居る母は、父の薬を貰うために病院へと出掛けていたのだ。 俺は、父と2人きりでの留守番に興奮し、はしゃいでいた。 父と何をして遊ぼう。 肩車してもらうのもいいが、 外に出てサッカーもしたい。 「お父さん、なにしてあそぶ?」 「千春…お父さんな、足を怪我しちまったんだ。だから、今日は遊べねーんだ。」 悪いな。と、凛々しい眉を下げながら俺の頭を撫でる父。 いつもの豪快で元気な雰囲気はなりを潜め、肩を落とす寂しそうな父を見て、俺自身も寂しい気持ちになった。 何とかして、父を元気にしたかった。 「足、いたいの?」 「そうだなぁ…今は痛くねぇが、動かすと痛くなるし、治るのも遅くなる。足が治ったら、遊ぼうな。」 足が痛いから、お父さんは遊べないんだ。 足が痛いから、お父さんは寂しそうな顔をするんだ。 俺は、ギブスの着いた父の足を撫でながら、母がいつもしてくれるおまじないを口にした。 「いたいのーいたいのー飛んでけ!はやくーげんきになーれー!」 俺は、気が済むまでおまじないを唱え続けた。 お父さん、もう治ったかな。 遊んでくれるかな。 俺だって、その頃にはおまじないに根拠が無い事は理解していた。 転んだ俺に母がおまじないを掛けてくれた時も、じんじんとした痛みは治らなかった。 それでも、仕事の忙しい父が家に居て、怪我さえ無ければ遊んでるくれるという状況から、 少しだけ、本当に治るかも知れないと期待していた。 治らなかったとしても、治そうとおまじないを唱えた事を褒めてもらえると思っていた。 しかし、俺の淡い期待は見事に砕け散った。 おまじないを唱え終えた俺の目に入ったのは、目を見開き、真っ青になった父の顔だった。 「お父さん…?どうしたの?ぐあい悪いの?」 真っ青な父の頬に手を伸ばした。 「さわるなっ!!!」 父は、俺の手を払い、勢いよく立ち上がって叫んだ。 そう、父は、立っていた。 折れているはずの足は、完全に治っていたのだ。 .
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