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地下鉄が動き出したが、彼女はそのことにも気づいていなかった。
彼女の目は大きく見開かれ、携帯の画面を見たまま動きを止めている。
そんな彼女の表情が気になって仕方なかったのは、正面に座っていた女性だった。
そんなに大きく目を見開いたら疲れるだろうに……。
そう思いながら彼女を見つめていると、突然彼女は大きく口を開けて宙を見上げたのだ。
声を出そうとしているのか、空気を吸おうとしているのかは分からない。
しかし彼女は大きく口を開け、まるで超音波のようなか細い声を上げたのだ。
「ぁぁぁぁぁ……」
周囲の人々はその異常な行動に目を向ける。
立っていた者は場所を変えて、遠くから彼女の様子を窺っていた。
隣に座っていた男は眉を寄せ、あからさまなまでに嫌悪感を露わにして彼女に視線を向けた。
しかし、その行為が仇となる。
彼女は突然、男の方へ首を回すと二人の目が合ったのだ。
男はビクついて身体を後退させたが、彼女は大きな目をひん剥いて男を見た。
「ぐあぁぁぁぁぁぁ!」
奇声を上げたかと思うと、彼女は男の首に噛みついた。
「うわぁっ!」
車両内がざわついた。
首を噛まれた男は一発で頸動脈を噛み切られ、車内に大量の血の雨を降らせながら踊り回った。
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