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『佐久間 悲願の2000本安打達成』 『度重なる故障、引退危機を乗り越えた不屈の男、大願成る』 達成当日、球場のある地元では号外が乱舞し、地元紙やスポーツ紙の一面も似たような見出しで溢れかえった。 いや、地元紙に限らず多くの新聞が彼の記録達成を祝福し、讃える記事を寄せることになった。度重なる故障に屈することなく幾度も立ち上がりこの記録を目指したこの男の夢は、いつしか自分だけのものでなく多くの人に希望をもたらした。中年の星とか、そういった枠に収まるものではない。もっと多くの人を巻き込んで勇気を与えたこの男を、全国紙は祝福せずにはいられないのだ。 男の名は、佐久間 進といった。 プロ野球には、2000本安打というすごい記録がある。 どうすごいのかを野球に関心がない人にも伝えるのはちと難しい話ではあるが、過去80年に及ぶプロ野球の歴史で、プロ野球選手と呼ばれた者は5000人以上。そのうちこの2000本安打というやつはうち50人しか達成していない記録と言えば、少しは伝わるだろうか。 1年に100本ヒットが打てればまぁ合格と言われる世界で、単純にそれを20年続けてやっとたどり着く計算。ただしプロ野球選手の平均的な選手寿命は約9年という何ともはかない現実がある。 野球に心底のめり込み、死に物狂いに練習してきた奴らが全国から寄ってたかって80年。そのうちで50人だけがたどり着く境地。 少しは、2000回ヒットを打つという狂気じみた記録について分かってもらえそうな気がする。そこにまた一人名を刻む男が現れたのだ。 私はそんな狂気に満ちた夢を叶えたこの男を小さい頃からよく知っている。一緒に学校に通い、給食を食べ、時には白球を追いかけ、スタンドから大声でヤジった。 佐久間が昔から野球に愛された”申し子”だったのかと言えば決してそんなことはない。むしろ私の知る彼は凡人そのものであった。ただ、夢を信じ続けるという一点を除いては。
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