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「まぁ、何するこれするだけじゃなくてさ、今まで誰にも話せなかった事何でも俺に話せよな。人に言えないお願いだって、わがままで勝手な事以外何でも聞いてやるから。な?」
返事はなかったが、首はかすかに縦に動いていた。
「さ、言い訳考えながら、科学室行こ」
明がポンポンと背中を叩いたとき、怜が話し出した。
「……解った。行くよ。でも、お願いなんだけど」
「なんだ?」
「もう5分だけ、ここに居させて」
なんで?と聞こうとしたとき、振り返った怜の睫が濡れてるのを見付けて、明は怜の顔から視線をそらし
気付かない振りをして笑って頷いてやった。
「それからさ」
「んだよ、さっそくお願い攻撃だな」
わざとふざけたつっこみ口調で怜に答えた。
「さっき、アキラが僕の頭触ってたの、やじゃなかったらもう一回してくんないか?なんだか気持ちよかったから」
明は怜の顔から視線を外しているので、怜がどんな顔でこの言葉を自分に向かって言ったのか解らなかったが、何も言わずに撫でてやった。
明自身も手触りが良くて、もっと触りたい不思議な気分になった。
「ありがと。なんだか落ち着くよ……」
心地良さそうに目を閉じている怜の髪を、明はいつまでも触っていたかったが、しばらくして踏ん切りをつけ「5分経ったぞ」と頭を小突いて怜を起こした。
「ちぇっ、わかったよっ」
口を尖らせしぶしぶ身体を起こした怜の制服を、乱暴気味にはたいてやった。
屋上から校舎への戻りかたは、断然楽だった。
小窓の横には、屋上入り口の屋根へ登る為の、壁に埋まった形の太い鉄棒のハシゴが等間隔に付いている。
怜が先に戻り、見様見真似で明が後に続いた。
窮屈な小窓をくぐるとき
(これから度々通る事になるんだろうな)
と思いながら。
* * *
言い訳もろくに考えられないまま科学室に着いてしまい、明は内心焦り足踏みした。
けれど怜は扉を開けた途端、足取り重くふらつきながら歩いた。
「おくれてすいません。身体の調子が悪くて……渡部君が保健室まで付いてきてくれたんです」
怜は力無い声で先生に説明した。
定年間近の、人が良い事で知られてる科学担当のニックネームじっちゃん先生は、完全にだまされ心配までしてくれた。
明は心が少し痛かったが、実験の手を止めて心配そうに見ている相川の顔やクラスメイトの顔を見て、怜を軽く支える演技をして合わせた。
席につくと、怜は明の方を向き、口端だけを上げいつものにやり笑いをしている。
怜の予想の出来ない行動と訳の解らない性格を体感し、明は腹を決めたとはいえ、この先に一抹の不安を感じ苦笑いをした。
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