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「あの、あのさ」
僕はきっと、むすっとしていたと思う。でもその表情をよそに、男は立ち上がり、必死の形相をしていた。
「オレ、50年眠って1年起きてっていう生活スタイルなんだ。でも人間って、長くても百年くらいしか生きないだろ? だからこれまでは友達ってものを作らないでいたんだけど……」
男はそこまで一気に喋ると、今度は視線をテーブルに落として僅かに頬を赤らめた。
「こうやって話をするのって、楽しいね……」
男の話が本当なのかどうかわからない。
だが、
まるきり嘘だとも言い切れないと思う。
決して深入りはしない。
個人情報は教えない。
僕は困ったように笑った。
「きみがまた眠りについて、今度目覚めた時、僕はしわくちゃのお爺さんになってると思うけど」
男は弾かれたように顔を上げた。
目が輝いていた。
「大丈夫、魔法使いって、嗅覚が鋭いんだ」
もはや笑うしかない。
とりあえず明日も来ることを約束して、店を後にした。
これからこの生活能力ゼロの魔法使いに、いろいろ教えてやらなくては。
[おわり]
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