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 四月も下旬に入ろかという頃、学校から下校すると、エントランスに見慣れたピンヒールが置かれていた。母のものだ。今日は都内にいるときいていたので、帰ってきているのだろう。 「母さん、おかえり」  リビングダイニングに入ると、ソファに腰掛けた母の後ろ姿をみつけた。しかし反応がない。  帰ってきたばかりなのか、母は正装姿のままだった。ソファにかけると窓の外の庭を見ながらよくカフェを嗜む人だが、今はただぼうっと庭を眺めているだけだった。いつもと違う様子に礼一は違和感を覚えた。  近づいてみたが今日は手にも近くのテーブルにもカップはなかった。 「……母さん、どうかした?」  再び声をかけると母はびくりと体を揺らす。 「……あら、礼一。おかえりなさい、ごめんなさいね、気がつかなくて」  そういって微笑む母の顔は、心なし青白かった。いつも活気に溢れている姿とは真逆の様子に、ますます違和感が募る。 「具合で悪い?」 「具合……? いいえ、大丈夫よ」 「じゃあ……何かあった?」  探るようにあたりに視線を巡らせると、母の手に封書が握られているのに気がついた。送り主が先日性別種判断検査を請け負った医療機関だった。  検査は採血による血液検査のため即日結果が出るわけではなく、十~十四日間要する。また極めてデリケートな情報のため、結果は医療機関より自宅に郵送され、本人と近親者のみに報告される。     
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