一、プロローグ・平成二十七年一月、森田望一

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一、プロローグ・平成二十七年一月、森田望一

 森田望一は、大学で同じ学科の学生たちと横浜駅前の繁華街の中にある居酒屋「臥楽喰太(がらくた)」で、大人に成り立ての美酒を酌み交わしていた。  「森田、お前、美穂が好きなんだろ、成人の勢いで告白しちゃえよ」  親友の下総幸司が言う。それを聞いて望一は、照れた赤面をアルコールで隠しながら言った。  「いや、そう大っぴらに言うものではないし……」  すると、幸司はすっと二つ隣の佃美穂のところに行って、さらりと囁いた。  「美穂、席変わってよ。森田が話有るって」  「はい」  美穂は、大人しく幸司の言うことを聞いて、望一の前に座った。望一は、好意を抱いている佃美穂が目の前に来て緊張したが、酒の勢いもあって思い切って話し掛けた。  「佃さん、今日はおめでたいね」  「そうだね、森田君。若い頃、早く成人したいと思っていたけど、してみるとやはり楽しいものだよね。これで大人の仲間入りだもんね。自由と権利を獲得したような気分だね」  いつになく饒舌な美穂は、望一同様、成人の美酒に酔いしれていたのだろうと思う。望一は、美穂に呟いた。  「佃さんは、好きな男とか居るのかなー?……」  美穂は、意味ありげに、ふふと微笑んでみせる。  「居たらどうするの、森田君?」  望一は、真っ直ぐ自分を見る瞳に、こころが熱くなってしまい、ついつい口走ってしまった。  「そんな男は、こうして、こうして、食ってやる!……」  箸でぼこぼこに穴を開けて、望一は鉄板皿の上のウインナーを口に放り込んだ。  「あらら、痛そ……」  「でもね。……僕は、佃さんのことが好きなんです!」  美穂は、そう言う望一に笑顔で答えた。  「ありがとう、森田君」  「そういえば、佃さんの出身校とかについて、聞いたことなかったな」  「市内の公立の進学校よ」  「僕は北陸の片田舎の高校です。だから、佃さんのような都会の女には憧れるなー」
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