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弟のように可愛がっていた立冬に、女みたいに俺が夏生に抱かれたと知られてるかも……なんて
(耐え難い……。ああ、切腹でもしたい)
昔、侍が「士道不覚悟」って切腹したよな。あんな気分だ。
これまで俺が「紅」だのなんだのとからかわれても、「男」として守ってきた矜持を、この俺自身が貶めてしまった。
それで、俺はかなりへこんでいた。
翌日、運良くか悪くか、俺は立冬にばったり会った。
いつもは夏生と行くんだが、さすがに昨日の今日。顔を合わせにくい。こっそり一本先の電車に乗ってしまおうと、少し早めの時間に出たら、ばったりと玄関先で立冬と会ってしまった。
同じ大学、同じ駅への道。
(立冬らしいな。講義に余裕持って、少し早めに出る所みたいだな)
俺は思ったけど、この間の悪さは何とも言い難い。
「……」
何も喋らずに行くのも変だ。
(昨日の声を聞かれたかも……。)
とは思いつつも、意識するのも変だと考え、俺はいつものように
「おはよう、立冬」
平静装い、声をかけた。
すると立冬が
「……おはよう」
と答えた。
ちょっとの間が気になったが、元々立冬は言葉が重い。すぐには返事をしないってのは分かっていた。
一八三㎝の高身長に、夏生によく似た整った顔。
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