3.欲望に忠実な男×都合のいい男

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そうだ。その日、獅堂は紅峰と共に松永の法事に参加した後、帰りの車の中で紅峰に襲いかかった。松永の思い出を語る松永とはまるで似ていない紅峰の横顔を見ている内に得体の知れない感情がこみ上げてきて抑えきれなくなったのだ。 『この車、冷房効きませんね』 ハンドルを握っていた紅峰が、そう言いながら片手で黒いネクタイを緩めボタンを1つ外した瞬間、その得体の知れない感情は爆発した。調度人気のない路地の信号で停止していた車の中で、獅堂は紅峰の空いた胸元に手を滑り込ませ自分でも驚くことを口走ってしまった。 『ダメだ、我慢出来ない。なあ紅峰、やらせろよ』 それに対して紅峰は全く動じずに答えた。 『わかりました。でもウチに着くまで我慢して下さい。席、後ろに移動していただけますか?』 確かにまた衝動に襲われて我慢出来ずに手を出したら事故になりかねない。獅堂は紅峰に従い後ろの席に移動して手足を組んで耐え、紅峰の部屋に案内されると服を剥ぎ取りほとんど前戯もせずに突っ込んだ。言われてみればそれは昨日流史に襲いかかった自分と重なる。 「ああ・・・そうかもな」 昨日あの駐車場で喧嘩している若者を見つけるまで、獅堂は松永のことを考えていた。どうしようもなく会いたくなっていた。他の誰かでは到底満たせないその欲求が異常な性欲にすり替わりその時手近にいた男を襲ってしまったようだ。 (やべーな、俺・・・) 紅峰は自分を好いてくれているし、流史はプライドが高いから男にレイプされたなんて絶対に誰にも言わないだろうが、他の相手だったらとっくに刑事どころか人として終わっている。少し反省した獅堂は、服を着て紅峰から離れた場所に立つと、花火は見ずに本来の目的である店に出入りする客を見張り始めた。すると紅峰は窓から離れ、店に設置させて貰ったカメラの映像をチェックし始めた。
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