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1.エロジジイ×エロガキ
どうして生きているのだろう
守るべき人は死んでしまったのに
どうして俺はまだ、こうして生きているのだろう
時折呪文の様に浮かび上がる疑問に突き動かされて、流史は見知らぬ男を殴り続けていた。彼は今、5人を相手に独りで喧嘩している。
きっかけなんて忘れた。
相手がどうなろうと自分がどうなろうと、構わない。
死んだって、構わない。
そう思っていると、1人がナイフを取り出した。流史は一応ナイフを避けて戦い続けたが、ナイフを持つ相手がもう1人増えた。流石に避けきれず、腕に鋭い痛みが走った。
腕に赤い線が描き出され、見る間に幅を広げていく。けれど相手は興奮し、更にナイフを振り上げた。
「貴様ら、何やってる!」
突然、怒号が響いた。刑事だ。男達は一斉に逃げ出したが、流史はその場に残った。
腕の傷を抑える指から赤い糸が落ちている。
「またおまえか」
流史に近付くと、刑事は、ため息交じりにそう言った。
彼が喧嘩している流史に会うのは、もうこれで三度目だ。そしてそれ以前にも、ある事件の参考人として彼は流史に会っていた。
犬塚流史21歳。一流大学の学生だが、その事件の後学内で暴れて退学になりかけた。両親が頭を下げて情状酌量してもらいなんとか休学で収めたが、それ以来家にもあまり帰らなくなった。
「またアンタかよ。俺のことつけてんの?」
すき間なく生えそろった黒い眉を片方だけ吊り上げて、ちょっと見上げた位では三白眼にならない大きな黒い瞳で見詰められた刑事は、太い眉を寄せて眉間に皺を作りながら答えた。
「おまえ、ここ何処だかわかってるか?」
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