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後ろめたい気持ちを引きずりながら踵を返したとき、ポツ、と冷たいものが頬に触れた。
(え、雨?)
さっきまでそこそこ晴れていたのに、見上げた空はいつのまにか薄暗くなっていた。 地面もポツポツと少しずつ色が変わり始めている。
勇士郎は東屋を振り返った。当然屋根はあるが、彼の身体はほとんど外に投げ出されているし、倒れた自転車や荷物も同様だ。
勇士郎はしばしその光景を見つめたあと、重い溜め息をつき、再び踵を返した。
目を閉じている栗原にそっと近づき、肩を軽く揺さぶる。
「ちょっと、あんた、……栗原さん」
触れた肩は厚みがあったが、それだけに痩せた身体がなんだか不憫に思われた。
「……ん、」
ちいさく唸って、栗原がぼんやりと目を開いた。
「大丈夫か、ちょっと」
緩慢な動きで首を巡らせ、栗原が勇士郎の方を向く。
「――あれ、……高島さん」
「高岡や。何してんの、こんなとこで」
会うのは二度目だが、この異常事態に際して、早くも敬語は崩れ去っていた。
「あ…、え、っと。…すみません、俺」
まだぼんやりとしているようで、片手で目を覆いながら栗原は軽く頭を振った。
「無事退院したんとちゃうの、なんで家に帰らへんの?」
「あ、」
「ん?」
「……関西のひとなんですね」
「うん、まあ、そうやけど、その話今いらんやろ。とにかく雨降ってきたから、屋根の下入り」
「あ、はい」
「立てるか?」
「大丈夫です」
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