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私は貴子の左手の薬指を独占する、いや左手だけじゃない、彼女のすべてを受けいれることを許される存在になれたのだ。
「理夏、これはどこ?」
「ああ、私の部屋に運んでおいて」
貴子は段ボールを私の新しい部屋に置いた。私のアパートの更新が切れるとともに、私たちは一緒に暮らすために引っ越した。物件探しは難航したが無事に新居が決まると、事はスムーズに進んだ。
「ごめん、もうそろそろ行かないと」
貴子はそう言ってエプロンを外し、スーツを着た。
「大丈夫。あとは私がやっておくから。そんなことよりも仕事、頑張ってきて」
「七五三って言わないのね」
「今日も可愛いよ」
そう言って、貴子の口紅が落ちるといけないので、私は彼女の頬にキスをした。
「じゃあ行ってきます。理夏も無理しないでね」
私は玄関まで行って、手を振って貴子を見送った。
あらかた作業が終わると、インターホンが鳴った。私は確かめることもせずに、ご機嫌にドアを開けた。
「こんにちは。貴子の母でございます。山崎理夏さんですよね」
「そうです」
私は思わず挨拶を抜かしてしまうぐらいの珍客に驚いた。玄関先では申し訳ないので、まだ散らかっているリビングに貴子の母を通した。
「こちら、つまらないものですが」
そう言って有名なブランドのクッキー缶を袋から出し、私の方に差し出した。
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