5.すきなのに、汚れてた

4/8
538人が本棚に入れています
本棚に追加
/173ページ
「流加くんはブラック派ですか?」  俺がコーヒーを飲んだのを見て、実月が言った。 「うん。甘いのはあんまり好きじゃない」 「前回砂糖もミルクも使わなかったので、そうなのかなと思ったんです」 「へえ。ワンちゃんみたいな顔して、よく観察しているんだな」 「お友達の好みは知りたいじゃないですか……ってワンちゃん?」  実月が不思議そうな顔をしていた。まんまるの瞳で小首を傾げるところはやはり犬に見えて、俺は笑いながら答える。 「あんたさ、犬に似てるって言われない?」 「僕が、ですか?」 「初めて会った時から思ってたけど、あんた、犬に似てるよ。特にミニチュアダックスフントて感じ」 「それって、あの胴体長めの可愛い犬ですよね?」  俺は頷いた。  だって何回見ても似ているのだ。外に跳ねた髪は垂れた耳。潤んでまんまるの瞳に、男にしては小柄なところも全部。  俺にしか見えない実月の尻尾がだらりと垂れた。複雑そうな顔をしている。 「その例えは、喜んでいいのか悲しんでいいのか……難しいですね」 「とりあえず喜んでおけば? 可愛いってことだし。俺はあのワンちゃん好きだよ」 「流加くんがそう言うなら、喜んでおきますね」  一転し嬉しそうな実月の姿に、ぶんぶんと尻尾を振っている音が聞こえた気がして、ついいじわるをしたくなった。  右手を実月に差し出す。 「お手」  すると実月は顔を赤くし、上目遣いで俺を見た。それから「……わん」と答えて、俺の手にこぶしを乗せた。  恥ずかしそうに犬の真似をする二十八歳の男なんて、滅多にいないだろ。ドSのお姉さまに見つかったら連れ去られてしまうかもしれない。 「……あんたってほんと、可愛いな」  素直にお手をしたことも面白かったけど、何よりこの可愛い一面を見てしまったことが嬉しくて、ニヤニヤと笑う。
/173ページ

最初のコメントを投稿しよう!