538人が本棚に入れています
本棚に追加
/173ページ
「流加くんはブラック派ですか?」
俺がコーヒーを飲んだのを見て、実月が言った。
「うん。甘いのはあんまり好きじゃない」
「前回砂糖もミルクも使わなかったので、そうなのかなと思ったんです」
「へえ。ワンちゃんみたいな顔して、よく観察しているんだな」
「お友達の好みは知りたいじゃないですか……ってワンちゃん?」
実月が不思議そうな顔をしていた。まんまるの瞳で小首を傾げるところはやはり犬に見えて、俺は笑いながら答える。
「あんたさ、犬に似てるって言われない?」
「僕が、ですか?」
「初めて会った時から思ってたけど、あんた、犬に似てるよ。特にミニチュアダックスフントて感じ」
「それって、あの胴体長めの可愛い犬ですよね?」
俺は頷いた。
だって何回見ても似ているのだ。外に跳ねた髪は垂れた耳。潤んでまんまるの瞳に、男にしては小柄なところも全部。
俺にしか見えない実月の尻尾がだらりと垂れた。複雑そうな顔をしている。
「その例えは、喜んでいいのか悲しんでいいのか……難しいですね」
「とりあえず喜んでおけば? 可愛いってことだし。俺はあのワンちゃん好きだよ」
「流加くんがそう言うなら、喜んでおきますね」
一転し嬉しそうな実月の姿に、ぶんぶんと尻尾を振っている音が聞こえた気がして、ついいじわるをしたくなった。
右手を実月に差し出す。
「お手」
すると実月は顔を赤くし、上目遣いで俺を見た。それから「……わん」と答えて、俺の手にこぶしを乗せた。
恥ずかしそうに犬の真似をする二十八歳の男なんて、滅多にいないだろ。ドSのお姉さまに見つかったら連れ去られてしまうかもしれない。
「……あんたってほんと、可愛いな」
素直にお手をしたことも面白かったけど、何よりこの可愛い一面を見てしまったことが嬉しくて、ニヤニヤと笑う。
最初のコメントを投稿しよう!