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「はぁぁぁぁ~」
成田空港からの帰りの車の中で、関東龍仁会・雷門組若頭の雷門理玖は深いため息をついた。
「なんですか一体」
助手席の舎弟、浪越紘史(ナミコシ ヒロシ)は怪訝な顔をして振り返る。
兄弟極道の世にも珍しい結婚式から早1年が経とうとしていた。パートナーである組長・雷門桂斗は日本で最強の極道組織を率いる長だ。世に許された仲になったと言うのにラブラブな時期はなく、仕事、仕事ですれ違う毎日。いい加減甘い新婚生活を味わいたい・・・理玖は不満でイライラしっぱなしだ。
結婚前よりも抱き合う機会も少なくなった。まだ22歳の・・・今を盛りの青年・理玖は悶々とする日々が続いているのだ。
「明らかにおかしいよな。新婚なのにセックスレスとか・・・全く理解できない」
「若、声に出してプライベート語るのやめてくれません?」
運転席の七生は頬を膨らませながら、後部座席の上司に抗議する。
「だって、そうだろうが!1年間に何回したか数えられるくらいだぜ」
「もう、若頭。組長の夜の生活想像しちゃうから辞めてくださいよー」
春から若頭付きになった助手席のヒロが顔を赤らめて非難する。
移動は若頭専用のベンツ。七生が運転し、助手席にはヒロが、後部座席には若頭である理玖が陣取る。
「組長はお忙しそうですね」
「ああ、家に全然帰ってこないんだよ。ずっとすれ違い生活ってさぁ、マジでどういうこと?って感じ。会長の命(めい)でなんか大きな事案で動いてるのかなぁ・・・オレには何の情報も流れてこないし・・・」
「若もこの所お忙しかったですもんね」
「でも自宅には帰ってたぞ」
確かに俺は、結婚式後から政界、経済界、芸能界との繋がりをつけるため、闇の高級クラブを任され、その立ち上げに心血を注いでいた。その仕事も今日やっとひと段落ついたところだ。
「肝心のあの人は家にも帰ってこない」
「なにか大ごとなんですかね」
「組長の行動は恭介も真一もいっさい漏らさないしな・・・」
恭介、真一は雷門組の幹部で組長の側近だ。常に一緒に行動し組長を守っている。
「いい加減、あの人に会いたいなぁ」
「そうですよね・・・」
ヒロも理玖の気持ちを慮ってぽつりと呟いた。
「会長の所にご機嫌伺に行こうかな」
「組長の抱えてる案件をそれとなく探ろうとしてるんですか?」
なるほど七生は鋭い。理玖の考えをすぐに読み取ってしまう。
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