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「石田殿、それがしは長いこと、誤解をしておりました。伝馬町にも、貴公のような同心がいらっしゃるとは、思いませんでした」  さすがに俺は自嘲するしかなかった。真っ直ぐに向けられた瞳から堪らず目を逸らしたが、八島様の視線は注がれたままだった。 「……それがしは、性根の腐った不浄役人でございます。親から譲り受けたこのお役目、小銭を稼ぐために牢内の極悪非道など目をつぶり、酒代に変えてまいりました。貴殿の様なお方に心の底から尽くす者たちが身銭を切った金を、どれほどこの胸に入れてきたか分かりません」 「……なぜそれをわざわざお話になる」  口調の柔らかさに顔を上げると、八島様はかすかに、それと分からぬほどに微笑んでいた。  その表情を見たとたん、俺は、また図らずも吐露してしまった。 「御身を前にしたら、つい正直に胸の内をさらけ出したくなりました。……申し訳ございませぬ」  さすがに気恥ずかしくなって立ち上がると、「石田殿」と八島様の声がかかった。  八島様は思いがけず腰を上げたのか、文机に置かれていた筆が、畳の上を転がった。  俺はその時、鍵役の立場であるのをいいことに、外鞘まで入っていた。     
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