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世間体を考えて涼一から離れるなんて選択肢は、榛名の中にはもう無かった。このまま一緒に居ていいのかと思ったら、彼に伝えたい言葉が浮かんだ。
「誕生日おめでとう」
「……ありがと」
恋人同士のような甘い空気をすぐに作り出せるほど榛名は器用ではない。焦りながらも面映ゆい心持ちで、話題を探した。
「お前とこんなことになるとはな……」
「最初に好きなったのは榛名さんの方だろ」
「まさか。お、お前が俺を無理やり……」
「そんな風に思ってたの? 俺には榛名さんが俺を誘ってるようにしか見えなかったけどな」
「馬鹿だな。そんなわけないだろう」
自信家な一面に、誰に似たのやらと思わず考えた。候補者を頭の中で上げてみたが、自信過剰な人物はいない。ということは、もしかしたら自分のせいかもしれないと、榛名は自分が与えたかもしれない影響に少しだけ申し訳なく思ってしまった。
「だって榛名さん、俺が高校のときから、まともに視線合わせてくれなくなったよね。俺に気のある女の子もみんなそうだったから、すぐに分かったよ」
「ばっ、誤解だ! お前の思い違いだ」
榛名の抗議など耳に入っていないのか、涼一は全く取り合わない。
「そのくせ、あいつと浮気なんてするから、なんて最低な奴だと思ってた」
「う、浮気って……」
ずいぶんな行き違いに、榛名は後日改めて事実誤認を訴えねばと心に決めた。
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