第九話 紅蓮艦隊

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──昭和59年の8月。 一週間だけスターサヴァイヴァーが出現しない期間があった。 毎日、毎時間、毎分。星空から雨のように飛来し、建造物の破壊や子どもの誘拐が、世界で相次いでいた。 星を暗雲が飲み込む。それは大量の異星人だった。 日常とのさよなら。人類は徹底的に反攻した。だがメディアは敗北を報じ続けた。 ラジオ越しの絶望だけではない。先月まで朝に挨拶を交わしたご近所の人々と会えなくなった。 半壊した家に隠れても、帰省先に向かっても、異星人の影があった。 目に見える恐怖に絶望し、全ての生活の営みがストップし、ただ逃げて、隠れる場所すらもない。 あらゆる地域で、世界の人々は同じ思いであった。 「いつになればこの非日常が終わるのだろうか?」 ……そんな中、夜空が発光することが頻発した。 はじめ人類はその怪光も異星人の仕業だと考えた。 ところが、それは人類守護の光であることが間もなく判明する。 観測班によって、宇宙でスターサヴァイヴァーと闘う存在が確認されたのだ。 その存在が発光するたびに、暗い雲のように群がる無数のスターサヴァイヴァーが一瞬で蒸発した。 地上に異星人が飛来しない一週間。その正体は、紅蓮色のつるぎが、宇宙(そら)で全ての外敵をせん滅していたのだ──。 「──それが、紅蓮艦隊フェニックス……!!」 ──現在、月周辺にて、ハロウは宙に浮いた状態にいた。 しかしそこは宇宙空間というより、光そのものの中だ。 と思ったら、辺りが一瞬で暗くなる。光で麻痺しているが、闇の向こうには明滅する星々が輝いていた。 「危なかったぁ、これ以上月にいたら……」 ハロウが見下ろす先に、えぐれた月があった。 まるでアイスクリームをスプーンですくったようだが、月の満ち欠けを思わせる広大なクレーターである。 いもいもくんもハロウの胸から月をのぞき込む。 「ていうかおい、ハロウ、お前の服……白くなってないか?」 「隠れろ、いもいもくん!」 その瞬間、四度目の光が放たれた。 いもいもくんは骨髄反射的にハロウの胸に隠れる。 「……寒冷の限界はマイナス273・15 ℃」 女の声がした。  
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