寂寥ノ章

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寂寥ノ章

 「寂しい」と言う感情はひどく自分勝手なものである。 「そんなものなのかな?」  隣から、明るい声が響いてくる。  ふんわりとした黄金色の毛並みを持ち、頭の上には分かりやすく大きい耳をつけ、尻からは目立った尻尾がテンポ良く、左右に揺れている。  彼女は人間らしい姿に化けているが、本来は妖、本人曰く、九尾の狐というものを目指しているらしいが、まだ尾っぽは五つしかない。しかし、五つであっても、その一本一本の質は神々しく感じられるほどであった。それ故、そのふわふわを何度か、触ってやろうと試みたが、未だそれは達成されていない。  ちなみに、彼女の名前は稲穂と名付けた。名前の由来は至極簡単で、彼女の毛並みが風に揺られた稲穂を連想させたから。それだけ。 「稲穂は寂しいと思った事はあるか?」 「昔は思わなかったかなあ。気づけば寂しくなっていたって感じ?」 「それは最もらしいな。寂しさは頭が良くないと感じないから」 「つまり、私は頭が良い?」 「畜生以上、人間未満だ」  彼女は頭を捻らせて、僕の方を見る。 「どうして寂しくなるのかな? 泉は寂しくないの?」 「寂しくはない。けど、寂しくあらねばならないと思わされる事はある」     
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