いつもの少女が、いつもの注文を。

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いつもの少女が、いつもの注文を。

その少女はいつもひとりでやってくる。 手狭なクレープ屋であるが、女子高にほど近い立地のおかげで、放課後と重なる時間帯は常に黄色い声が店内を盛り上げていた。 ワイワイとやってきて、ワイワイと注文して、ワイワイと焼き上がりを待ち、ワイワイとお金を払い、ワイワイと出ていく。 大学生の自分とはほんの数年しか年齢は変わらないはずなのに、この活力はなんなのだろうかと不思議に思う。女とは実に不思議な生き物である。 バイトを始めて間もないうちはその勢いに押されて焦って仕事をこなしていたが、3か月も経った今では彼女たちと軽くトークをしながら、クレープを焼く事もできている。 特別バイト代が高いわけではないが、それなりに楽しい職場ではあった。 「ありがとうございましたー」 10名の団体客の注文をこなし、見送りの言葉を送る。 健康的に日焼けをした陸上部の面々は、クリームたっぷりのカロリーの塊を豪快に口に運んでいた。「ダイエット? 何それ美味しいの?」と言わんばかりで実に微笑ましい。 それまで騒がしかった店内は、お客が途切れてふいにエアポケットに入ったかのように、静かになった。     
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