第3章 叔母

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第3章 叔母

蝶の寿命は大体、数ヶ月から長くて1年である。 その寿命も幼虫から成虫までを含めての期間であり、 当然ながら成虫になった後ではそれ以上に短い。 蝶の形をなしてからは、種類にもよるが数週間で死んでしまうはずだ。 あの標本は10年近く放置されていた。 それなのに、蝶は元気に羽ばたき、窓から出て行ったのだ。 まさしく「奇跡」だった。 その日の夜は、近親者のみで仮通夜が執り行われた。 仮通夜後は、夜通し、ロウソクと線香の火を絶やさないようにと、 数名の親族と交代で、祖父と枕飾りを見守ることになった。 一緒に付きそうことになったヨシミ叔母さんは、 お酒を飲みながら、スマートフォンでオンラインゲームに熱中していた。 やがて、それにも飽きたのか、ため息をついた。 「あーあ、つまんない」 「あんなに熱中していたのに?」 「いやぁね……規制されちゃったみたいでさ」 「何を規制されたんですか?」 「バグを使った裏技がね」 「裏技?」 「そうそう。特殊な操作をするとバグって、簡単にレベルが上がったり、 レアキャラを集められたりするんだけど。そのバグをね、運営側が修正しちゃったみたいなの」 「それ普通なんじゃないですか」 「そりゃそうなんだけど。やっぱ最初の頃が一番楽しかったなぁ。 規制もなくてさ。抜け道無しのゲームなんて、堅苦しすぎて、つまらないと思わない?」 「不平等ですよ。正攻法でゲームしている人が、かわいそうです」 「クソ真面目な奴……」 叔母さんはテレビをつけ、ザッピングし始めた。
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