わんだふるライフ

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「先生のおかげです。ありがとうございます。……初音先生」 下の名前をわざと呼べば、向こうもこちらの見え隠れする気持ちを感じ取ったのだろう。しかし噂に違わぬフェミニストさは間違いではなかったようで、私の名前も覚えているよと言うかのように名前を呼んだ後、お疲れ様。と少し砕けた口調で付け足してくる。 よければご一緒しませんか?とこちらから言わせる事無く自然と一緒に飲む機会を与えてくれる相手は確かに女性の扱いになれているのだろう。それに全く下心も嫌味も忖度も感じさせないのは流石としか言いようがないが、こちらとしては少し物足りない。 アルコールが回ってきたのだろうか、いつもよりも自分の感情に対して素直になっている本音にくすりと笑うと、カクテルグラスを傾けていた彼がゆっくりと私の名前を呼ぶ。 「今日は忙しかったからかな?綺麗に整えられたセットが少し崩れちゃってますよ」 「どこですかね?」 相手が自分の髪を触りながら場所を説明しているのを無視したまま顔ごと近づければ、少し苦笑した声が聞こえた後髪の毛にさらりと長い指が通り過ぎる。 「お疲れでいつもより少し回りが早いようですね」 「そうみたいです。でも上に部屋を取ってあるので大丈夫」 「それなら安心ですね」 彼の最近の好みは黒髪の女性ではないだろうか。そんな噂が流れてきたのは、つい最近韓国の有名な一族の関係者でありモデルでもある女性と付き合っているという話があるため、信ぴょう性が高いとされている。 奇遇な事に私もしばらく切っていない黒髪の手入れには自信があるし、周りの男性からはわりとそう言った視線で見られる事が多い。 だからわかっている。特別にはならないかもしれないが、一度や数度程度ならば、もしかしたらがあるかもしれないと。
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