わんだふるライフ

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別に特別になりたいと強く思う程彼の事は知らない。 けれど大人の付き合いは全てを知ってから始まる訳でもない事はお互いわかっているだろうし、体の相性が万が一悪かったとしても相手のステイタスは文句のいいようがない程いい。勿論、私の方も。 こちらの露骨すぎない、しかし少し偶然にしてはオープンにカードを切ってみせたこちらの対応に、彼は何を考えているかわからない笑みを浮かべたままゆっくりと髪から手を抜くと、こちらに軽く謝り席を立つ。 これは明日のスケジュールを調節してくれるのだろうか?スマホを懐から取り出して見せた所を見るとどこかに電話するのは間違いないが、少し傲慢すぎる考えかもしれない。 「マスターこれと同じものを」 グラスにわずかに残っている彼が飲んでいたカクテルグラスをカウンターに差し出せば、相手は特に何も言わないまま全く同じものを作って差し出してくる。 『これ』は一種のお互いの気持ちを素直にする薬だと思っている。 当然これを使って犯罪をして事もなければ、美人局のように相手にその後を脅迫した事もないが、相手が例えば妻子持ちだったとして、けれどこの夜は楽しみたいとお互い思っているような空気が流れた時、そんな事にこれを使う事でその空気を断ち切らせずに円滑に進ませるもの。 そんな風に思っているからこそ特に罪悪感もなく封を切り、自然な手つきで相手のグラスに白っぽい粉を沈ませる。 「おかえりなさい」 自然な動きでゆっくりとグラスを回して『これ』をアルコールに溶かすと、にっこりと笑って相手の目の前に置く。 あたかも気の利いた相手であるかのようにふるまえば、女性から差し出されたものを断る男性はいなかった。特にこちらにも気のあるそぶりを見せた男は・・・。
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