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「なんだね君は?私はそこにいる須藤の上司だ。部下に声を掛けただけで見ず知らずの人間に横柄な態度を取る君の方こそ無粋ってもんだろう」
明らかに辰巳を年下とみて、男が居丈高に言い放つ。
その態度に、甲斐は眼鏡をして出てきた事が裏目に出たことを悟った。
「おい須藤。お前からも何とか言ってやらないか!この男はなんだ!?」
男の矛先が自分に向い、甲斐はすっと立ち上がると髪を掻き上げた。眼鏡を外しながらおもむろに口を開く。
「失礼。確かに私は須藤と申しますが、人違いでは?私は貴方など存じ上げません」
冷たい視線で男を射抜いたまま、甲斐が言葉を紡ぐ。
「友人の非礼は百歩譲って謝るとしても……。見ず知らずの人間に横柄な態度が無粋だと言うなら、それは貴方も同じ事でしょう?」
甲斐は嘲笑うように言ってのけると、無粋な乱入者の後ろに立つフレデリックを見た。
騒ぎを聞いて駆けつけたのだろうフレデリックの口許には、苦い笑みが浮かんでいる。
こうまで言い放たれて平然としていられる人間などいない。言い返す言葉もなくただ口をぱくぱくとさせているマヌケな男の肩を、フレデリックが叩いた。
「失礼。お客様、何かトラブルのようですが」
よろしければ別室で話を伺いましょう。と、事務的な口調で言うフレデリックの手を、男が払う。
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