花火の夜に

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「ああ、本当だとも。だから、今日はごちそうを買いに出てきたんだ」 「へえ! 早く言えよ!」 「驚かせたかったんだ」 「じゃあさ、ケーキも買おうよ」  遥は年相応の無邪気さではしゃぐ。その表情に、愛らしさを覚える。  敏朗に似ているとは、あまり感じなくなってきていた。遥の方が素直で、愛嬌がある。 「ああ。そうだな。この先にケーキ屋があるから、買って来なさい。俺はそこの酒屋にいるからな」  千円札を手渡すと、遥は背負っていたショルダーバックから長財布を出してそれを入れた。 「じーちゃんは、なににする?」 「俺はケーキは……じゃあ、プリンでも買っておいてくれ」  笑顔で頷いてケーキ屋に向かった遥を見送る。本当に、初日の荒れっぷりはなんだったのだろうか。  雅之は一人で酒屋に入り、缶ビールを一本買った。花火を見ながら一杯飲みたい。 (……遥と酒を飲めるのは五年も先なのか)  雅之が初めて酒を口にしたのは、今の遥と同じ十五の夏だった。  村の祭りの夜。敏朗と共に親父のビールを盗んできて、神社の境内で隠れて飲んだのだ。  苦くて不味くて、二人して一口でうんざりしてしまった。あの時は大人はよくこんなものを飲めるなと思ったものだが、今はこの苦みと刺激的な旨さが理解できる。     
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