75人が本棚に入れています
本棚に追加
/68ページ
「ああ、本当だとも。だから、今日はごちそうを買いに出てきたんだ」
「へえ! 早く言えよ!」
「驚かせたかったんだ」
「じゃあさ、ケーキも買おうよ」
遥は年相応の無邪気さではしゃぐ。その表情に、愛らしさを覚える。
敏朗に似ているとは、あまり感じなくなってきていた。遥の方が素直で、愛嬌がある。
「ああ。そうだな。この先にケーキ屋があるから、買って来なさい。俺はそこの酒屋にいるからな」
千円札を手渡すと、遥は背負っていたショルダーバックから長財布を出してそれを入れた。
「じーちゃんは、なににする?」
「俺はケーキは……じゃあ、プリンでも買っておいてくれ」
笑顔で頷いてケーキ屋に向かった遥を見送る。本当に、初日の荒れっぷりはなんだったのだろうか。
雅之は一人で酒屋に入り、缶ビールを一本買った。花火を見ながら一杯飲みたい。
(……遥と酒を飲めるのは五年も先なのか)
雅之が初めて酒を口にしたのは、今の遥と同じ十五の夏だった。
村の祭りの夜。敏朗と共に親父のビールを盗んできて、神社の境内で隠れて飲んだのだ。
苦くて不味くて、二人して一口でうんざりしてしまった。あの時は大人はよくこんなものを飲めるなと思ったものだが、今はこの苦みと刺激的な旨さが理解できる。
最初のコメントを投稿しよう!