タナトスは21才だ。

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タナトスは21才だ。 研究所の建物の前にいる。座っている。ベンチに。木でできている。細く厚く木目の浮かんだ茶色の木が7枚並んでいて、背もたれはなく、両端に石がつながっている。ベンチにタナトスと安治は座っている。 安治はあれこれ言うのをやめて、遠くを見ている。タナトスを気にすると、精神状態がよくなくなる。 視界に山はない。富士山はない。ここは銭湯ではない。富士山は絵ではない。タナトスは富士山を実際に見たことがない。銭湯に行ったこともない。 足元は砂利だ。庭だ。敷地内の、建物のすぐ外にある庭だ。樹木がある。庭だ。でも枯山水ではない。庭の砂利であるにも関わらず枯山水ではない。タナトスは砂利をブーツで踏んでいる。 安治は空を見上げた。空は全体的に灰色で、ところどころ白っぽくもやもやしている。灰色と白と水色が混じった色だ。太陽と月と星は見えない。だから曇りだ。 タナトスは書くのに時間がかかる、と安治が怒った。 タナトスはノートを持っている。昨日まで持っていなかった。北条さんがタナトスに書くよう命じてノートを渡した。タナトスはノートに書く。 書く内容は決まっていない。 北条さんは朝、思ったことや考えたことを書けばいいと言った。何がいけないのかとタナトスは質問した。いけないことは特に指定していないと北条さんは言った。いいことがあるならいけないこともある。 タナトスは思ったり考えたりしない。書くべきことがわからない。北条さんはタナトスが書く内容を指定しなかった。安治は、今言ったことを書けばいいんだよと言った。何がいけないのかとタナトスは質問した。そういう意味のいいじゃないと安治は怒った。そういう意味とはどういう意味かとタナトスは質問した。そういう意味じゃないと安治は怒った。そういう意味とはどういう意味かとタナトスは質問した。殴りたいと安治が言った。タナトスは安治がなぜ殴らないのかと質問した。安治は答えなかった。安治は怒った。
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