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だけど追及するのは憚られて、
「……はい。用件は済んだのでそれじゃ」
慌てる狩野先生に一礼して、そっと美術室を後にした。
放課後の渡り廊下に夕陽が差し込む。
練習に励むサッカー部の掛け合いの声が遠くで聞こえる中、俺は廊下をただ一人歩く。
いつもは自然と徹太がいないか探すけれど、今はそうしようとは思えなかった。
「母さんは……24歳の時に俺を引き取ったんだっけ……」
“高校時代”
“随分長い間付き合ってた”
言葉にした途端、ぐるぐると二つのワードが脳裏を駆け巡り、灰色の靄と際限の無い疑問を生み出していく。
高校時代から随分長い間付き合っていた……って、どれぐらいの期間なんだろう。
交際は大人になってからも続いていたんだろうか。
それとも別れたんだろうか。だとしたら理由は何だろう。
もしかして、今もその人と繋がってたりするんだろうか。
そして、母さんはどうして今まで俺に黙っていたんだろうか――。
「……いや、わざわざ俺に話す内容でもないか」
週刊誌の記者やワイドショーのコメンテーターみたいに憶測と詮索に努めている気がして、大きくかぶりを振った。
そこまで考えてようやく、“家族”になって以来初めて母さんの恋愛事情に触れたのだと気が付いた。
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