碧落の愛

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 となりで眠っている妻が発した声で、僕は目を覚ました。寝室は夜の闇に包まれていて、ほとんど何も見えなかった。枕もとの小さな置時計が、かちかちと深夜の時を刻んでいた。 「……誠一さん」また、妻の声がした。  その声は悲しみを含んでいて、泣いているみたいに震えていた。あるいは彼女は泣いていたのかもしれない。  前夫の夢をみながら……  顔を妻のほうに向けると、暗闇に白い背中がぼんやりと浮かんでいた。その背中も小さく震えているように見えた。僕は手を伸ばして彼女に触れようとしたけれど、その手が妻の肌に触れることはなかった。  僕はふたたび暗い天井を見あげて、ため息をついた。目を閉じて深い眠りの中に戻ろうとしたけれど、僕の意識はまるで漂流する小舟のように、薄いまどろみの中を朝まで漂っていただけだった。
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