冬、微熱。

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 今日は珍しく午前中の来客が八組もあった。受付を兼ねている私はその度に自分の作業を中断しなければならなず、ちょっとイライラしていた。自分自身で最終的な打ち合わせまで行う新規の客は少ないにしても、こうちょこちょこ中断されては自分の仕事が進まない。午後は銀行と郵便局に行く予定だから、ついでにコンビニにでも行ってリフレッシュしてこよう。 (そして甘い物とか買っちゃお)  ちょっとした息抜き予定にほくほくと満足しつつ、事務所の奥にある打ち合わせテーブルでお弁当を広げた。 「今日、客多かったね」  同僚の恵美子が紙コップを片手にやって来る。 「本当よ。新規が四組。珍しいったら」 「四組! へぇ」 「こんなときくらい加納が手伝ってくれても良いと思うんだけど」  恵美子はオレンジ色のビニール袋からサンドイッチを取り出した。大通りを挟んだところにあるベーカリーのものだ。人気があり、朝は毎日混んでいる。 「無理でしょ。あの仏頂面が接客なんてしたら、新規の客なんて付かないわよ」 「折角事務所に居るのに? だったら加納の代わりに室長が残ってくれれば嬉しいんだけど」 「三宅さん? あの笑顔は癒やしだけど、室長自ら接客する会社っておかしいでしょ」  お昼のこの時間、事務所に残っているのは私と恵美子、新谷さんという女性陣だけだ。今日は加えてセールスの林さんが残っていた。パチパチとパソコンを叩いている林さんは、今の作業を終えたらそのまま外食に行き、午後の営業に出るんだろう。
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