仙人掌

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早苗(さなえ)」 「なぁに?」 「明日は、一緒に帰れるか?」 「うーん……明日も部活があるから。コンクール前だからどうしても遅くなっちゃうし、やっぱり先に帰ってて」  ごめんね、と優しく頭を撫でられる。困ったように眉根を寄せて、あやすように笑う。  早苗がちらりと時計に目をやった。ああ、彼女の門限が近づいている。  放課後は毎日、一緒に過ごすようになってもう何年になるだろう。彼女の家で定められた門限は最初の頃よりは少しずつ延びてきてはいるものの、まだ未成年だから、といまだに夜は早めに設定されている。 「もう帰るのか?」 「うん……ごめんね、最近なかなかゆっくりできないね」 「明日も、これくらいか」  そだね、と早苗は淡く微笑んで呟く。俺は不満の色を隠しもせずに唇を噛み、もう一度、彼女の背に回した腕にぎゅうと力を込めた。  彼女は演劇部に所属している。普段はまったりとしたペースで活動している部だが、年に数度、コンクールだかなんだかの発表の場が近づくと、にわかに日程(スケジュール)が過密になる。許可の下りるぎりぎりの時間まで学校に居残(いのこ)って練習と打ち合わせ。その度に、こうして二人で逢う時間を削られるのだ。
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