6人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
最強のパーティ
妻の病室を訪れると、今日も息子の祐希はベッド脇で携帯型ゲームに耽っていた。
娘の里緒から聞いたところによると、ゲーム内で「最強のパーティ」を作ろうとしているらしい。
俺はその様子に眉を顰めながら、中へと入る。
「あなた、おかえりなさい」
いつものように朗らかな笑みで声をかけてくれる妻に、「ただいま」と言葉を返す。
妻の美雪は二月ほど前からこの病院に入院している。病名はガンだ。数日後には、大きな手術を控えている。
腫瘍ができた場所が悪いため、場合によっては命にも関わるような難しい手術になるらしく、そのことは悩んだが子供達にも伝えた。こんなことは考えたくもないが、もしかしたら子供たちが母と過ごせる時間はあと僅かかもしれないと思ったからだ。万が一にもそうなった時なるべく後悔しないように、できる限り共に時間を過ごし、少しでも多くの話をしてほしい。そういう想いだった。
それなのに祐希ときたら、毎日病室を訪れはするものの、ろくに話もせずにゲームばかりしている。
「祐希、ここでゲームはやめなさいと言っているだろう」
もう何十回としてきた注意をするが、祐希は「もうちょっとでこいつレベルMAXだから」とかなんとか言って、ゲームから手を離そうとはしない。
「いい加減にしなさい」
俺は少し苛立って、ゲーム機を取り上げようとした。
しかし美雪はそんな俺を「あなた」と穏やかな口調で諌める。
「いいのよ」
美雪は美しく優しい女性だ。「美人薄命」なんて言葉もあるし、「良い人ほど早死にする」とかいう話を聞いたこともあった俺は、内心かなりの不安を抱えていた。
一番不安で怖いのは妻だろうし、一家の主である俺がしっかりしなければとなるべく平静を装ってはいるが、本当は今だって心配で心配で堪らない。
そんな俺にとって祐希の行動は理解できなかった。
お前は心配じゃないのか?
母よりもゲームのほうが大事なのか?
祐希に対してそんな不満を抱いたまま、手術の日を迎えてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!