76食目 ストーカー

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キッチリと巻かれた髪、タイトスカートから伸びるスラリとした足、カツカツと音を立てる赤いピンヒール………肩にかけられたバッグに添えられた細い指も、伸びた背筋はどことなく気品が溢れる………。 ああ、今日も彼女は美しい………!!! そんな彼女を毎晩、何かないようにこうしてこっそり見守るのが俺の日課である。 俺は世間一般ではストーカーと呼ばれる部類に当たる、毎晩仕事帰りの彼女を彼氏でもないのに一定の距離を保ち彼女が無事に家に帰りつくのを警護してやるのが俺の役目だ。 彼女は勿論俺の存在なんて知らない、まず俺も彼女の名前を知らない。 分かるのは大手企業に勤めている事と、タイトスカートから伸びた足が美しい事、必ず左にバッグをかけることとヒールを履いていることくらいしかない。 大学の帰りにたまたま俺の前を歩いていた彼女、後ろ姿だけれどその美しさに惹かれた俺はもっと彼女を知りたくていつしかこの行為を始めたのだ。 だけど俺はまだそんな彼女の顔を見たことがない………。 不思議なことに後ろからわざと抜かして見ようとしても、何故か彼女に追いつけずそれだったら朝出勤する時なら見れるだろうと思い早朝から彼女が住んでいるマンションの前で彼女が出てくるのを待っていたんだがいくら待っても出てこない。 そのうち、俺も大学へ行く時間になってしまいもしかして今日は会社が休みだったのかと後悔しつつも長い長い講義を聞きヘトヘトになりながらも、いつもの習慣で彼女の会社の前を通れば前方に彼女が歩いている姿が見えたのだ。 その時は、もしかして午後出勤だったのかと思ったのだがそれから日を変えたりしてどれだけ俺が彼女の住んでいるマンションの前で見張っていても彼女は出てこない。 ともすれば丸一日彼女のマンションの前にいて、彼女が出てくるのを待ったことがあるのだがその日一日彼女は家から出てくることはなかった………。 人間、見えない物を見たくなってしまうのは性で今日も俺は愛しの彼女を守るため、あわよくば彼女の顔を見るためにストーカー行為を続けていたのだった。
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