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奈緒子の見開いた目が、潤み始める。溢れそうな思いを堪えるかのように、ぐっと眉に力を入れ、最後の一文字までを読み終えた。
真実が詰まったこの手紙を、最上先生が読まないなんて選択肢はあり得ない。
奈緒子は迷わず便箋を最上に差し出した。
「読んでください」
「嫌だ……俺には無理だ」
「読んでください!」
強い語気と共に、便箋を最上の胸に押し付ける。
奈緒子は泣きそうになりながら、それでも最上の瞳を真っ直ぐ射抜いた。
「ちゃんと向き合ってください。酒井先生が最期に伝えたかった事を、ご自身の目で確かめてください。大丈夫ですから、絶対大丈夫、私もここに、最上先生の側にいます」
奈緒子の強い思いが伝わったのか、最上は力なく畳にへたりこんだ姿勢のまま、便箋を受け取った。
虚ろな目は、のろのろと文字を追っていく。
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