マリー・ゴーランドと砂糖菓子の蠅

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「みんなとやらはさ、アンタなんてどうでもいいんじゃない?」 「違うもん……かわいいって、いいねくれるもん……」 「そうだねえ。アンタのむちむちの身体の画像で抜く事しか考えてない男がかわいいって言ってきたり、自分の作品を紹介している人間を無碍に扱えない作家がいいねして、優しいコメントくれるんだよね」  猫なで声でBluffmanは言った。愛美はやめて、と叫んだつもりだった。その引き攣った声さえ醜い豚の鳴き声のようで耐えられなかった。Bluffmanはガラスのコップにどぼどぼと日本酒を注いだ。 「飲みな」 「いらない」  悪魔の唆しのような勧め方に、愛美は怯む。 「毒なんか入ってない。悪夢から醒めたかったら、飲みな」 「夢なの、これ」  縋るように愛美は問う。 「現実って名前の、悪夢だよ」  コップを持つ彼女の手は酒が抜け切っていないせいで震えており、なみなみと注がれた日本酒がぽたぽたとフローリングに落ちていく。 「悪夢をコントロールするには、酒が一番だ」  Bluffmanの酒臭い息に、愛美は息を詰める。間近で見ると、がらがら声のせいで遥か年上だと思っていたが、愛美とそう変わらない年齢のようだった。 「悪夢の話は、終わりだ。あとはアンタの夢の話をしよう」  ついには無理矢理コップを持たせ、Bluffmanはこの部屋の、工房の中心のクッションに座った。机の脇に置かれた紙の束を彼女は示す。
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