生霊

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 それから一週間ほど後……。 「――この前はどうもありがとう。改めて礼を言うよ。葵ももうすっかり良くなって学校にも復帰したよ」  放課後に再び天文部の部室を訪れた燿は、久々に阿倍野と言葉を交わしていた。  まだ加茂や他の部員達は来ていないらしく、しんと静まり返った厳かな部室に今は阿倍野と曜の二人きりだ。 「それと、六条さんなんだけどさ、なんでもイギリスへ留学することになったらしい……昨日、向こうへ発ったそうだ」 「そうですか……〝さよなら〟の本当の意味はそういうことだったんですね……」  燿の報告に、阿倍野は今日も机の上の望遠鏡へ向かったまま、一見して興味なさそうな態度で淡々とそう答える。 「ま、後輩が先輩にこんなこと言うのもなんですが、これに懲りて、もう女の子を悲しませるような真似は慎んでくださいね? でないとまた誰かに生霊を飛ばされるかもしれませんよ?」  だが、その態度とは裏腹に何か思うことがあったのか、やはり望遠鏡を捏ね繰り回しつつも、そんな忠告を背後の燿に与える。 「ああ、わかってる。さすがの僕も今回の一件は骨身に沁みたよ……」  後輩からのそんな諫言に、学園一のプレイボーイもさすがに反省したかに思えたのであるが……。 「てことで、今日はこれから咲と映画を見た後に、今度は葵とディナーに行く約束だ。どっちにも淋しい思いをさせないよう、ちゃんとサービスしないとね……じゃ、僕は忙しいんで失礼するよ」  燿は屈託のない笑顔でそう答えると、たいそう愉しそうな様子で天文部の部室をスキップで出て行く。 「…………ハァ~…」  燿がいなくなり、再び静かになった部室の中で、阿倍野は大きな溜息を吐くと「まだぜんぜん懲りてないな」と心の中で呆れ果てた。                              (生霊―現代訳『葵』帖― 了)
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