第1章

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突然バシャッと音がして頭の上から水をかけられた。チョコレートヌガーを食べていた青年が、持っていた瓶を逆さにしてぼくに水を浴びていた。ぽかんと口を開けたぼくの前髪から、ぽたぽたと冷たい水が滴り落ちる。 サッと自分の顔から血の気が引いていくのがわかった。 「えっ、と……」 取り囲んだ三人はお互いに耳打ちし合いながら、ぼくを見下ろしている。全員ぼくよりも年下に見えたが、残念ながらぼくよりも数倍目つきに迫力があった。知ってるぞこういうタイプ。ぼくが通ってたハイスクールにもいた。 くちゃくちゃとずっとガムかチョコレートを噛んでいて、声をかけても終始無言。どうしても返事をしないといけない時は、代わりにガムを膨らませる。学校に友達はおらず、しょっちゅう先生に荷物検査されていてタバコやナイフを没収されていた。たまに授業に出たかと思えば、ペットボトルをライターの火で炙って遊んでいる。町中で見かける時はヤバそうな友達と数人連れ立って地べたに座って会話してて「やあ元気?」って声をかけると、手に持っていたタバコをぽいっと地面に捨てて、にやりと不穏な笑顔を向けてくるやつ。 もちろんぼくは、そんなヤバイ奴らを遠巻きに眺める善良な生徒その一だった。 「ねえ、名前教えてよ。どこに住んでるの? 年は? 仕事は何してんの?」 彼らのうちの一人が、ぼくの前に座り込んだ。チョコレートヌガーを食べていた男の子で、何日も洗ってなさそうなベタついた髪の毛の間から怯え上がるぼくを楽しそうに睨みつけていた。 ぺろりと下唇を舐めながら、にやにやとぼくに言った。 「あとさ――君、オメガだよね?」 彼の笑顔は決して好意的なものではなかった。馬鹿な生き物を見下すようなシニカルな笑い。ゾクリと背中に冷たいものが通り過ぎる。 「えっと……、あの……っ」 ぼくはずりずりと後ずさり、距離を取ろうとする。だが彼も一歩二歩とすぐに距離を詰めてくるから少しも距離は離れなかった。 ガツンッと冷たいものが背中にぶつかった。ゴミ箱だった。もう、逃げ場はない。 「家まで連れてってあげるから、はやく住所教えて」 強い力で腕を掴まれる。ガンガンと頭痛がして、ここから早く逃げろと理性が警鐘を鳴らしていた。でも少しも身体はまともに動かない。 「やめっ……!」 手足をバタつかせて、彼の腕を振り払おうとしたときだった。 「――コリン」
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