第1章 回転世界のホワイト

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第1章 回転世界のホワイト

駅を外からぐるりとまわって東口から入り、路線連絡通路の間にある男用トイレを目指す。 エレベーターもエスカレーターも、止むを得ない場合を除いて近寄らない。 急ぐ必要もないのに周りの歩調に合わせ階段を少し急ぎ気味に上がってみて、手に持つボックスの中でぶつかり合う大事な仕事道具の音に歩調を落としたその時。 どん、と後ろから衝撃を受け、何故か肩に掛けられていたその手で重心が後方へ移る。 抗う間なく顔の正面は薄汚れた地下鉄の天井になった。 仕方がないので、手に下げていたボックスは体で抱え込み、これから起きるだろう衝撃に対してどうすべきかだけに集中する。 ―――登ってきたのは十七歩…。この段幅の狭さに体をはめ込んで止まるのは難しいか 手すりも遠く、届いた所で生憎両手は既にボックス保守専属。 傾斜の角度と選択可能な体勢でどう落ちるのが最善か決めかねていた時、階段の滑り止めがラバーだった事を思い出した。 今日はエナメルのベルトで良かったと、素材同士の引き留め合う相性に安堵しながら腰を丸め、脊髄を避け脇から当たるように体を捻ると、またも計算外の事が起こった。
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