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 ホテルを出る前に行っておこうとお手洗いに入ると、我慢していた涙が一気に溢れ出た。流れた涙の分だけ、凌空のことが好きなのだと思うと、ますます涙は止まらなくなった。  何度目かは分からない涙をハンカチで拭くと、ぼやける視界のなか、エントランスに向かって歩き出した。  エントランスに続くロビーを横切る時、パーティーにいた人達よりは、ややカジュアルな格好をした若いカップルがいた。携帯を見ている男性の大きな声が、不意に耳に入り込む。  「ははは!まじか、やべえな!」  「どうしたの?」  「いや、あの芸能人のパーティーやってる会場。中に知り合いがいんだけどさ、誰かは教えてくんないけど、叫びながら暴れまくってるって。まあ、羽目外しすぎた酔っぱらいってとこだろうな」  思わずぴたりと足を止める。  芸能人のパーティーって、絶対に凌空の所だ。酔っぱらい、という言葉から、凌空と透さんの会話を思い出した。暴れているのは、俳優の、浅野リョウスケだろうか。  凌空、大丈夫かな。  咄嗟に戻りたい、と思った。だけど、酷いことを言って、嫌われたかもしれない。もう修復は無理かもしれない。それに、ついさっき、この恋に幕を下ろしたばかりなのだ。  後ろを振り返ることなく、私は突き進んだ。  そして、エントランスを出ようとした、その時。  突然、遠くからガラスが割れたような激しい音と、叫び声が聞こえた。  何を言っているかなんて全く聞き取れないのに、不思議と、私の名前のような気がした。
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